2007年10月11日

社内ベンチャーリーダーとしての孫正義

「孫正義」といえば、恐らく戦後の起業家の中でも確実に歴史に名前を刻むリーダーの一人だと思います。現在は、もちろんソフトバンクグループの総帥を務めています。さて、孫正義と聞けば、多くの方は起業家として、または革命家?としてのイメージを持つことだと思います。Yahooを日本に持ってこなければ?ナスダックジャパンを設立しなければ?YahooBBでADSL事業を始めなければ?ヴォーダフォンを買収して携帯電話事業を始めなければ?・・・。失敗も多いですが、孫正義の存在がなければ、日本は停滞していた分野がいくつかあるのではないかとも思えます。そういう意味では、起業家であり、革命家としてのイメージで捉えている方がきっと多いことでしょう。しかし、私は、数々のビッグな事業は、実は起業そのものではなく、社内ベンチャーとして始まった、企業内新規事業であることに注目し、社内ベンチャーのリーダーとしての孫社長をウォッチしています。

ソフトバンクは、ヤフーやADSL事業を始める際は、四畳半で窓もない劣悪な環境で4,5人のチームからスタートしたと、元社長室長は「ソフトバンク 常識外の成功法則」という書籍の中で語っています。つまり、企業内でインキュベーションする新規事業もはじめは小さく始めているのですね。しかし、他社と異なるのは小さく火種を社内で温めておいてから、一気にバカでかく世間にリリースしていくところが、孫社長の真骨頂でもあります。しかし、これだけ大きな社内ベンチャーを成功させている裏側には、孫社長がリーダーとしての独自の人材感があるようです。それは、次の2点です。(1)「人を決してけなさないし、いったん人事を決めると我慢強く使う」、(2)「リスクは自分が取り、部下の信賞必罰はなし」というものです。

まず、(1)についてですが、ほめることはあっても決してけなさいというのは、誰しもが共通して口にする社内評のようです。もちろん仕事に関しては厳しく叱責することも多いようですが、その人となりについては言及することはないそうです。また叱責しても次回までは決して持ち越さないことも特徴の様子。更に、なかなか成果が上がらない社員がいても配置換えを出来るだけせずに、周囲の幹部クラスに成果が上がるように協力してやれという進言をするくらいだそうです。基本的にはデキが悪いことを人間性の話に持ち込めばキリがないですし、そもそも採用の責任を負っているのは自分だという気概があるため、細々と言わないそうです。この部分は頭では分かっていても、”我慢”ができないというリーダーの方が多いのではないでしょうか?私もこういうリーダーの方を数多くお見受けします。そのため、ここは特に重要だと考えているのです。

そして、(2)についてですが、孫社長と一サラリーマンの場合の社内ベンチャーのリーダーでは、リスクの取り方が異なるのは当然だと思います。しかし、一サラリーマンであっても、”気概”という部分では、同じものを持ってスタッフをリードしていく必要があるのではないかと私も思います。特にスタッフからすれば、リーダーにしか判断できないことの数々が新規事業の業務の中では発生してきます。そこで、リーダーが躊躇していたり、”任せる”という美辞麗句に隠れて、自分の責任逃れを少しでも心に持つと、スタッフ自身が動きにくくなってきます。つまり、新規事業で必要な、”徹底的”という部分が希薄になってしまうわけです。そこで、孫社長は、自分がリスクとるから、とにかく”徹底的”にやれ!という指示を出すのが通例になっているようですね。ここに、スタッフのモチベーションを上げ、新規事業に没頭させるリーダーとしての器が存在するのです。

さて、ここまでの文章を読んだ皆さんは、孫社長だから出来ること。誰もがあそこまでは出来ないよと言って、自分との違いを嘆かれることでしょう。しかし、その情熱や行動力、そして徹底力では孫社長は確かに並外れているかと思いますが、そのリーダーとしてのエッセンスは、リーダーであれば誰しもが持つべきものではないかと思うのです。ましてや新規事業とは、将来の本業になり得るもの。社内ベンチャーと言っても、会社を一つ自分自身で創業するのと同じだけのパワーが必要になる。そうやって考えると、実は起業家や革命家としての孫社長ではなく、企業内で立ち上げる社内ベンチャーのリーダーとしての孫社長には見習うべき点や学ぶべき点が数多くあるわけです。

起業と社内ベンチャーでは、事業を始めるときの環境が異なります。また、リーダーとしての特性も若干異なる部分もあります。しかし、組織で仕事をしていく場合の、リーダーの特性にはそれ程差がないものだと私は思います。社内ベンチャーを立ち上げる場合、一サラリーマンでは、起業家と同様にはなりきれない。しかしながら、リーダーという部分では、同様にならなければダメな場面も多々あるものだと思います。是非、スケール感の違いを嘆く前に、社内ベンチャーをリードする孫正義という人物を研究してみるのも面白いのではないでしょうか?今回は、文中に出てきた書籍で元社長室長によって語られている内容から研究を試みてみました。

投稿者 compas : 19:09 | コメント (0) | トラックバック

”しつこい”リーダー

新規事業を推進するリーダーや起業家のリーダー特性を語る際に、多くは第一に”情熱”や”ビジョン”が大事などと言われます。もちろん、そこに何の異論も私はありません。しかし、通り一遍等の切り口でリーダー像を考えてみても面白くありませんので、少し別の角度から「新規事業に強いリーダー像」というものを考えてみたいと思います。ただ、社内で新規事業を推進するリーダーと起業家は少し分けて考える必要があるでしょう。なぜなら、社内新規事業の場合は、決済や会社のしがらみなどで各種調整事項や根回しなどがそこに発生します。また、それに対して起業の場合は、100%意思決定を自分自身で行い、コントロールすることが可能だからです。ベースは同じですが、多少状況が変わるという部分で、リーダーというものを考える際に、注意も必要だと思います。しかしながら、ここでは社内で新規事業を推進するリーダー像というものを考えてみたいと思います。

さて、新規事業に強いリーダーとはどのようなリーダーのことを言うのでしょうか。私は、「”しつこさ”を持つリーダー」であると定義づけています。言い換えれば、”粘り強さ”とも言えますが、ここではより強いニュアンスに感じる”しつこさ”と表現しておきましょう。私はコンサルタントとして、数々の事業計画に目を通す日々を過ごしていますが、計画だけではなく、それを推進するリーダーも詰めが甘く、”しつこさ”を感じないということが往々にしてあります。もちろん、アイデアレベルの事業計画は詰めが出来てなくて当然、また新規事業をはじめて立ち上げる方にとっては未知の経験ばかりですので、行動に多少の甘さが出るのも当然かもしれません。しかし、この”しつこさ”をどれほど持てるかによって新規事業の成否も変わってくるのです。では、この”しつこさ”というもの、どういう風に捉えればいいのでしょうか。私は、”しつこさ”の中にも大きく分けて2つの要素があると考えています。一つは「考える”しつこさ”」、二つ目は「実行する”しつこさ”」です。

まず、「考える”しつこさ”」。リーダーは、森も木も両方見れる眼をもっていなければなりません。そして事業を考える際は、「繰り返し考えること」と、「奥深く考えること」に”しつこく”ならなければダメだと思うのです。新規事業の企画とは仮説に過ぎません。そのため、検証してはまた新たに仮説を立てる。そして寝ても覚めても考え続けるだけの”しつこさ”から、ある日突然スムーズに物事が動き出す瞬間が生まれてきます。また、考えが浅く止まるリーダーも世の中には数多くいらっしゃいます。しかし、現場に落とし込んで実践し、ましてや競合との熾烈な競争の中で差別化していくためには、とことん深く考えなければいけないとも思います。私は、”頭から血が噴出すくらい”にといつもクライアントの前やセミナーでは表現させていただいてます。

考える”しつこさ”という部分では、現在、日経新聞の「私の履歴書」というコーナーで毎日連載されているイトーヨーカドーの鈴木会長がお手本になる存在だと思います。鈴木会長は、誰しもが知るセブンイレブンの日本での実質的創業者。ちょうど、前回あたりより連載でもセブンイレブンの創業前後の話が出てきていますので、とても興味がもてます。さて、鈴木会長のロジックを簡単にご説明申し上げましょう。POSデータだけでは、全く売れ筋動向や顧客心理はつかめないというのが鈴木会長のロジック。もちろん、温度が高いからお茶が売れる、アイスクリームが売れるといった表面上の数値だけでも、商売は読めないと考えます。

例えば同じ温度が高い日でも、湿度が低ければ意外に涼しく感じる日もあります。ここで、温度やPOSデータだけを鵜呑みにすると、商品構成を誤ってしまいます。そのため、繰り返し仮説を立てて、検証する。そして仮説を立てるときには、とことん深く考える。こんな”しつこさ”が、現在のセブンイレブンを作り上げてきたものだとさえ、私は思うのです。考える”しつこさ”は、頭でっかちになりがちと批判する人もいますが、少なくとも新規事業の成功確率を上げるためには、リーダーにとって大事な要素だと私は思いますよ。

そして、考えるだけではなく、「実行する”しつこさ”」。考えること以上に実行することの方が重要なのは、言うまでもありません。しかし、この”しつこさ”を実行面でもどれだけ持てるかが、新規事業の計画時においても、立ち上げ時においても重要な鍵を握ります。松下幸之助氏の逸話で有名なものがあります。とある講演会で聴衆から一つの質問を受けました。「事業を成功させる秘訣を教えてください」と。すると幸之助氏は、一言こう答えられました。「簡単なことや。成功するまでやり続けるだけのこっちゃ」と。質問した人は、納得がいってなかった様子ですが、後から考えると、とても含蓄のある言葉であることに気付き、衝撃を受けたと言います。なるほど、これは成功するまで実行し続ける”しつこさ”を説いているとも私は思います。やり続ける粘り力は、人によっては撤退の基準も考えずに、無鉄砲だと言う方もいらっしゃるでしょう。しかし、少なくとも撤退基準が明確なときでさえ、実行する”しつこさ”を持ったリーダーが推進した新規事業は、とっても足腰の強いものになるのではないでしょうか。

新規事業というと、目新しいものであるうえに、成功すれば多くの賞賛を得られるため、一見すると派手な仕事に見えます。しかし、実際に成功させようとすると、裏ではとてつもなく地道な作業が待っています。そして、この地道な作業をどれだけ積み重ねたかによって、新規事業の成否が変わってくるから本当に派手さなどとは無縁なものと言えることでしょう。しつこく、しつこく、ビジョンや目標を追いかけていく姿。そんなリーダーの姿に、他のスタッフも魅了され、結果として上手に統率できるようになっているのもの。最近、”部下がよく言うことを聞く方法”などというマニュアル本が書店へ行けば、たくさん置かれています。しかし、そんなもの読んでも全く意味がありません。なぜなら、人間はロボットではないため、テクニックごときでは動かないからです。むしろ、目に見える形で”しつこく”実行する姿、地道に業務を積み重ねていく姿でしか、部下は言うことを聞かないと私は思いますよ。

考える”しつこさ”と実行する”しつこさ”、これは新規事業に強いリーダーのあるべき姿である。私は少なくともそう思います。あれを言ったら嫌われそう、こうしたらどういうように思われるかな?、そんなことを気にする必要は全くありません。他人にどう思われてもいい。愚直に”しつこさ”を追求できるリーダーこそが、新規事業を成功に導く。私はコンサルティングを各社でしてきた経験上、そう思いますね。

投稿者 compas : 18:41 | コメント (0) | トラックバック